『幸福物語 ペンギンズメモリー』はなぜ今こそ観てほしいのか?80年代が生んだ衝撃のアニメ映画
世の中には「おすすめのアニメ映画」を紹介する動画や記事がたくさんあります。
名前が挙がる作品は、ピクサー作品や『名探偵コナン』、『クレヨンしんちゃん』など、誰もが知る人気作ばかり。
もちろんそれらも面白いのですが、「あなたが一番おすすめするアニメ映画は?」と聞かれたら、私は迷わずこの作品を挙げます。
『幸福物語 ペンギンズメモリー』です。
ちなみに「幸福物語」は「しあわせものがたり」と読みます。

今では観ることすら難しい幻の作品
残念ながら、この作品は現在DVD化されておらず、配信サービスでも視聴できません。
つまり、観ようと思ったらVHSかレーザーディスクを探すしかないという、非常にハードルの高い作品です。
それでも私は、「機会があればぜひ観てほしい」と思えるほど印象に残っている映画です。
CMから生まれた異色のアニメ映画
『幸福物語 ペンギンズメモリー』は、サントリーCANビールのCMで一世を風靡したペンギンのキャラクターをモチーフに制作されました。
当時は、お菓子でも文房具でも人気が出ればゲーム化、特にファミコン化されるのがお約束だった時代です。
ところが、このペンギンたちはゲームではなく、まさかの劇場アニメになりました。
当時としてもかなり珍しいケースだったと思います。
CMについては、こちらの記事でも紹介しています。
懐かしい飲み物のテレビCM3選|忘れられない名CMを振り返る
見た目から想像する内容とのギャップ
あの可愛らしいペンギンのキャラクターと、どこか哀愁漂うCM。
そこから映画を作ると聞けば、多くの人は心温まる作品を想像するのではないでしょうか。
私の世代なら『メイプルタウン物語』のような世界観、今なら『すみっコぐらし』のような、ほのぼのとした日常を描く作品を思い浮かべます。

ところが、さすが80年代と言うべきか、誰もが想像するような無難な作品ではありません。
この映画はそんな予想の遥か斜め上を行く映画なのです。
※ここから先は作品のネタバレを含みます
ここからは物語の核心に触れます。
現在では視聴すること自体が難しい作品ですが、「ネタバレせずに楽しみたい」という方は、この先は読まずに映画を探してみてください。
可愛らしい見た目からは想像もつかない物語
映画は、洞窟のような場所で3匹のペンギンが語り合う場面から始まります。
傷を負った1匹が恋人の写真を見つめながら未来を語る・・という綺麗なフラグを立て、今では定番となったお約束を見事に回収します。
そう、この作品はまさかの戦争映画なのです。
主人公たちは「デルタ戦争」という戦争に従軍しており、この戦争はベトナム戦争をモデルにしています。
空爆から逃げ惑う市民たち。その様子を見た主人公・マイクは、味方による空爆に耐え切れず「やめろー!」と叫びながら飛び出します。
その結果、自身も負傷し、仲間のヘリに救出されます。
しかし、一緒に逃げていた仲間の1人はヘリにつかまった後、そのまま落下してしまいます。
この時点で、「あのCMから生まれた映画」とは到底思えない重苦しい展開です。
戦争が終わっても終わらない苦しみ
負傷したマイクは故郷へ帰還します。しかし、待っていたのは英雄として盛大に歓迎される日々でした。

戦場で仲間を2人失い、自分だけが生き残ってしまった。そんな罪悪感を誰にも理解してもらえないまま英雄扱いされることに苦しみ、マイクはPTSDのような症状に苦しみます。
PTSDという言葉が一般的ではなかった時代に、ここまで真正面から描いた作品は珍しかったのではないでしょうか。
ここまでで約20分。子ども向けアニメとは思えないほど重厚なドラマが続きます。
予想外の展開が次々と続く
その後、母親を探すため歌手を目指しているジルと出会い、2人は惹かれ合っていきます。
しかし物語はそこで終わりません。
ジルの婚約者である医師との関係、芸能プロデューサーとの対立など、次々と大人向けのドラマが展開されます。

本当に、あのペンギンのCMから発想された映画とは思えない内容です。
「どうしてこの脚本が通ったの?」と思ってしまう
正直に言うと、この映画を観ている間は何度もツッコミを入れたくなりました。

あの可愛いキャラクターで、なぜこのストーリー?

よく制作側がGOサインを出したな……
あのCMを見てこの脚本を書いた河野洋の発想もそうだが、その企画にGOサインを出した制作陣も相当攻めています。
今なら、このキャラクターでこの内容の企画はまず通らないでしょう。
私は大人になってから観たので、そのギャップも含めて楽しめましたが、当時これを映画館で観た子どもたちは、一体何を思ったのだろうか?
子ども向けなのか、大人向けなのか。最後まで不思議な感覚のまま観続ける作品です。
作品は最後まで真面目
ここは誤解してほしくないところです。
私は「ツッコミどころが多い」と書きましたが、作品そのものは非常に真面目に作られています。
中途半端なギャグで笑わせようともしていませんし、誰かに媚びるような演出もありません。
むしろ驚くほど硬派な作品です。
映画全体を貫くテーマは、「愛」。
マイクとジルが川辺で肩を寄せ合うシーンは、このブログでいう「エモい」という言葉がぴったりの名場面でした。

そして終盤の展開も印象的です。
ハリウッド映画なら、誰か一人を救出するためにド派手なカーチェイスやアクションの末に無関係な一般人を巻き込みまくっても一切のお咎めなし!スッキリ爽快ハッピーエンドで終わるような場面でも、この作品はそうなりません。
マイクはプロデューサーを殴ったあと、きちんと逮捕され、実刑判決を受けます。
現実には行動の責任が伴う。
そこまで描き切るリアルさも、本作らしさを感じます。
豪華すぎるスタッフ・キャスト
作品の本気度は、制作陣を見れば一目瞭然です。
主人公マイク役は佐藤浩市。
ジル役は鶴ひろみ。
さらに藤田真弓、奥田瑛二、ケーシー高峰、所ジョージなど豪華キャストが出演しています。
主題歌は松田聖子さんの「ボーイの季節」。
音楽監督は松任谷正隆という、今見ても驚くほど豪華な布陣です。
しかも製作は博報堂が加わっており、配給会社も東宝東和です。
音楽も名曲ぞろい
最後に触れたいのが音楽です。
CMでおなじみの「SWEET MEMORIES」。
主題歌の「ボーイの季節」。
サウンドトラックでしか聴けない幻の曲「Musical Life」。
さらに、歌詞は存在するものの本編では少ししか流れなかった沢田富美子さんの「青空 On My Mind」。
どの曲も作品の世界観にぴったりで、名曲ばかりです。
特に「青空 On My Mind」は、せっかく歌詞まであるのですから、いつか完全版としてリリースしてほしいと今でも思っています。
まとめ
『幸福物語 ペンギンズメモリー』は、可愛らしいペンギンのキャラクターからは想像もできないほど重厚で、大人向けのテーマを真正面から描いた異色のアニメ映画です。
そのギャップゆえにツッコミどころも多くありますが、作品自体は最後まで真剣に作られており、戦争や愛、人が背負う心の傷を丁寧に描いています。
豪華なキャストや音楽も含め、今なお埋もれたままになっているのが惜しまれる名作です。
DVD化も配信もされていないため気軽に観ることはできませんが、いつの日か多くの人が再びこの作品に触れられる環境が整うことを願っています。

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