中国四大奇書の『水滸伝』を知っていますか? 私が『絵巻水滸伝』をおすすめしたい理由
中国四大奇書というものをご存じでしょうか?
中国四大奇書とは、『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』『金瓶梅』の4つの長編小説のことです。
「奇書」という言葉から、何か奇妙な読み物を想像するかもしれませんが、ここでいう「奇」は「非常に優れた、珍しい書物」といった意味で使われています。
ちなみに中国では、金瓶梅の代わりに『紅楼夢』を加えた「四大名著」という呼び方のほうが一般的です。
今回はそのあたりの話はいったん置いておき、私が紹介したいのは、この中の一つである『水滸伝』です。
- 『水滸伝』ってどんな話?
- 『金瓶梅』は水滸伝のスピンオフのような作品
- 『水滸伝』は108人もいるから、とにかく登場人物が多い
- 『水滸伝』を読んでいると「この人誰だっけ?」となる
- 私が読んだ水滸伝
- 北方謙三版の『水滸伝』は別物として楽しむ作品
- そして出会った『絵巻水滸伝』
- 正子公也の絵が水滸伝を大きく変える
- 森下翠の文章が好漢たちを「人間」にしてくれる
- 好漢たちの最期もきちんと描く
- 『絵巻水滸伝』の宋江は、ただの絶対的リーダーではない
- 水滸伝名物「あだ名」の意味まで分かる
- 『絵巻水滸伝』は全部で何冊ある?
- 23年かけて完結した『絵巻水滸伝』
- 『絵巻水滸伝』をもっと多くの人に知ってほしい
- まずはWeb版を試し読みしてみてほしい
- まとめ
『水滸伝』ってどんな話?
『水滸伝』は施耐庵(したいあん)の作とされる中国の長編小説です。
ただし、作者については諸説あり、羅貫中(らかんちゅう)が関わったという説や、施耐庵と羅貫中は同一人物説などもあります。
※羅貫中は三国志演義をまとめた人です。
『三国志演義』や『西遊記』に比べると、日本では少しマイナーな印象があります。
「タイトルは聞いたことがあるけど、実際にどんな話なのかは知らない」という人も多いのではないでしょうか。
簡単に説明すると、無実の罪で陥れられた者や、もともと山賊や罪人だった者たちが、梁山泊(りょうざんぱく)という山塞に集まり、やがて108人の好漢(こうかん)と呼ばれる英雄たちが梁山泊に集結していく物語です。
この「梁山泊」という言葉は、今でも使われることがあります。
例えば「パチンコ梁山泊」のような名前を見かけることがありますが、これは梁山泊が、もともと政府側から見ればならず者たちの集まる場所だったことから、アウトローな集団などを表す言葉として使われることがあります。
ちなみに、日本の『南総里見八犬伝』も『水滸伝』から影響を受けた作品として知られています。
『金瓶梅』は水滸伝のスピンオフのような作品
四大奇書の一つである『金瓶梅』(きんぺいばい)も、水滸伝と無関係な作品というわけではありません。
『水滸伝』に登場する武松(ぶしょう)の兄の妻・潘金蓮(はんきんれい)と、その愛人である西門慶(せいもんけい)を中心に描いた物語です。
水滸伝の一エピソードをさらに掘り下げたスピンオフのような位置づけですが、内容は昼ドラもビックリの、かなりドロドロした男女関係を描いた作品になっています。
私は読んだことがないので、今回はこのくらいにしておきます。
『水滸伝』は108人もいるから、とにかく登場人物が多い
水滸伝の大きな特徴の一つが、とにかく登場人物が多いことです。
梁山泊に集まる108人の好漢には、それぞれ名前だけでなく、宿星やあだ名まで付いています。
108人のうち、上位36人は天罡星(てんこうせい)、下位72人は地煞星(ちさつせい)と分けられています。
しかも、108人が集まったらそこで仲間が増えなくなるわけではありません。
その後も梁山泊の仲間になる人物はたくさんいます。
ただし、108星には入れないというだけです。
そして正直なところ、先に加入した108星の一部よりも、後から加入する人物のほうが強かったり、有能だったりすることもあります。
このあたりも水滸伝の面白いところです。
『水滸伝』を読んでいると「この人誰だっけ?」となる
108人もいるので、当然ながら全員が目立つわけではありません。
特に地煞星の好漢には、かなり地味な人物もいます。
梁山泊に加入するときにはそれなりのエピソードがあったのに、その後は、
「この作戦には○○、○○、○○が出陣する」
といった感じで名前だけがただ羅列されるだけになる事もあります。
そうなると、

……この人、誰だっけ?
となってしまう。
私自身、原典ベースの水滸伝を読んでいて、名前を見ても顔が思い浮かばない人物がかなりいました。
108人もいるのだから仕方がないとは思うのですが、せっかく個性的な人物がたくさんいるのに、これはちょっともったいないところです。
私が読んだ水滸伝
では、実際に水滸伝を読んでみようと思った場合、どれを読めばいいのか。
私が最初に読んだのは吉川英治の『新・水滸伝』でした。
ところが、この作品は梁山泊の108人がそろったところで終わっています。
続きも書く予定だったようですが、吉川英治が亡くなったため、結果的に未完となっています。
「最後まで水滸伝を読みたい」と思った私が次に手を出したのが、駒田信二訳の『水滸伝』でした。
こちらは梁山泊のその後まで描かれており、水滸伝の全体を知るには非常に分かりやすい作品です。
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学者でもない私が「原典に忠実」と断言するのもどうかと思いますが、少なくとも私が求めていた「水滸伝そのものを知る」という目的には十分応えてくれました。
北方謙三版の『水滸伝』は別物として楽しむ作品
もう一つ有名なのが北方謙三の『水滸伝』です。
北方謙三作品は、水滸伝に限らず三国志などでも原典を大胆にアレンジしています。
そのため、「原典をそのまま知りたい」という人が読む場合には、少し注意が必要です。
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私は北方謙三の『三国志』を数ページ読んだことがあります。
ところが、まだ序盤も序盤なのに、私の知っている三国志とはかなり違う展開になっていたので、そこで読むのをやめてしまいました。
これは北方謙三の作品が悪いという話ではなく、単純に私が「原典ベースで読みたい」というタイプだったということです。
なので、北方版の水滸伝も、原典とは別の作品として楽しめる人なら問題ないと思います。
そして出会った『絵巻水滸伝』
大変長くなりましたが、ここまでが前置きです。
私が今回、本当に紹介したいのは『絵巻水滸伝』です。

正直、今まで読んできた水滸伝は、いわば前座でした。
私が『水滸伝』という作品を改めて面白いと思うようになったきっかけが、この『絵巻水滸伝』でした。
『絵巻水滸伝』は、正子公也と森下翠がタッグを組んで制作した作品です。
1998年にWeb連載が始まり、長期休載などを挟みながら23年にわたって連載され、2021年7月に完結しました。
正子公也が挿絵を担当し、森下翠が文章を担当しています。
正子公也の絵が水滸伝を大きく変える
まず「正子公也って誰?」と思う人もいるかもしれません。
正子公也は、歴史人物を題材にしたイラストを数多く手掛けているイラストレーターです。
光栄の三国志シリーズなど、歴史もののイメージイラストで名前を知っている人もいると思います。
師匠は『コブラ』などで知られる漫画家、寺沢武一です。
歴史もののイラストレーターといえば、私の中では長野剛、諏訪原寛幸、そして正子公也というイメージがあります。

特に三国志や水滸伝などの歴史人物画では、中国でも高い知名度があります。
そして、この『絵巻水滸伝』を読んでいて強く感じるのが、ビジュアルの力は凄いということです。
水滸伝には108人もの好漢が登場します。
原典を読んでいると、名前を見ても誰なのか分からなくなってしまう人物が出てきます。
ところが、正子公也の美麗なイラストが加わると、それが一気に変わります。

あ、この顔の人か
と、顔と名前が一致するようになるのです。
これだけでもかなり大きな違いです。
森下翠の文章が好漢たちを「人間」にしてくれる
もちろん、『絵巻水滸伝』の魅力は絵だけではありません。
文章を担当している森下翠の書き方も、私がこの作品を好きになった大きな理由です。
オリジナルの人物なども登場しますが、北方謙三版のように原典から大きく離れてしまうわけではありません。
かといって、原典をそのまま淡々と訳しているわけでもない。
原典の流れを大切にしながら、登場人物一人一人が印象に残るように描かれています。
これが実にうまいのです。
例えば、原典を読んでいても好きになりにくかったような超マイナー好漢の石勇(せきゆう)。
あるいは天罡星の中でも比較的地味な楊雄(ようゆう)。
さらには、
どうして強くて美人の扈三娘(こさんじょう)が、よりによって王英(おうえい)なんかと結婚するんだ?
と原典ファンも納得いかないような設定まで、ちゃんと読者が納得できるように理由づけて描かれています。
原典の設定を無理やり変えてしまうのではなく、「こういう事情があったのなら仕方ない」と思わせてくれる。
このあたりが、私には非常に面白く感じられました。
好漢たちの最期もきちんと描く
水滸伝の後半では、梁山泊の好漢たちが次々と命を落としていきます。
原典ではかなり無残な最期を迎える人物もいます。
『絵巻水滸伝』なら多少マイルドにするのかと思っていたのですが、そこも意外でした。
基本的には原典の流れをしっかり踏まえているのです。
だからこそ、後半になってくると「あのキャラクターが……」という気持ちが強くなります。
それまでに人物がしっかり描かれているからこそ、その最期が印象に残るのだと思います。
『絵巻水滸伝』の宋江は、ただの絶対的リーダーではない
梁山泊の頭領である宋江(そうこう)の描き方も、私が面白いと思ったところです。
原典の宋江は、彼の名前を聞くだけで皆がありがたがり、何かといえば「宋江の為なら何でもする、宋江なら間違いない」というような扱いをされる印象があります。
ところが『絵巻水滸伝』では、そこが少し違います。
もちろん、基本的には皆が宋江を尊敬しています。
しかし、何でもかんでも受け入れているわけではありません。
宋江の決断に不満を持つ者もいれば、文句を言う者もいる。
梁山泊の軍師である呉用(ごよう)でさえ、宋江の言動を理解できず、迷ったり疑問を抱いたりします。
梁山泊の仲間同士でも、過去に因縁があった者たちが、同じ仲間になったからといって完全に「ノーサイド」になるわけではありません。
「あいつとは合わない」と距離を置いている者もいます。
こういう人間関係があることで、梁山泊が単なる「108人の仲良し軍団」ではなく、一人一人がそれぞれの考えを持った人間の集まりとして感じられるのです。
しかも、こうした部分を追加しながらも、原典の大筋を壊していません。
ここが『絵巻水滸伝』のうまいところだと思います。
水滸伝名物「あだ名」の意味まで分かる
水滸伝をややこしくしているものの一つが、登場人物の「あだ名」です。
それぞれに宿星があり、さらに世間で呼ばれている通り名があります。
これがまた、初めて読む人にはかなり分かりにくい。
例えば、穆弘(ぼくこう)という好漢がいます。
穆弘の宿星は「天究星」、あだ名は「没遮攔(ぼつしゃらん)」です。
「没遮攔」と書かれても、

何のこっちゃさっぱり分からん!
となります。
漢字を見ただけでは意味が分かりません。
ところが『絵巻水滸伝』では、こうしたあだ名についても、物語の雰囲気を壊さないように自然に説明されています。
ちなみに「没遮攔」は「さえぎる者なし」といった意味だそうです。
さすがに私は宿星まで全部覚えられませんでしたし、108人全員のあだ名を全て覚えたわけでもありません。
それでも、『絵巻水滸伝』を読んだことで、名前とあだ名が一致する好漢はかなり増えました。
これは私にとって大きな収穫でした。
『絵巻水滸伝』は全部で何冊ある?
『絵巻水滸伝』は、かなりの長編です。
公式サイトによると、書籍版は現在、
- 第一部:全20巻(新装版)
- 第二部:全14巻
- 第三部「方臘篇」:全18巻
という構成になっています。


つまり、全部合わせると52冊。
こうして数字にすると、改めて凄い量です。
特に第三部の方臘篇だけでも18巻あり、2024年12月に最終巻が刊行されました。
正直、全部そろえるとなかなかの金額になります。
私は第一部の予約特典、第三部創刊が決まった段階で予約定期購入を申し込んだので、予約定期購入特典なども手に入れることができました。



長年追いかけてきた作品だけに、完結まで付き合えたのは結構うれしかったです。
23年かけて完結した『絵巻水滸伝』
何より凄いと思うのが、この作品が23年という長い時間をかけて完結したことです。
1998年に始まったWeb連載が2021年に完結。
しかも、そこから書籍版も展開され、第一部20巻、第二部14巻、第三部18巻という大ボリュームになっています。

これだけ長い作品になると、途中で終わってしまったり、設定が大きく変わったりすることも珍しくありません。
そんな中で、きちんと最後まで描き切ったこと自体が凄いと思います。
『絵巻水滸伝』をもっと多くの人に知ってほしい
私がこの記事を書こうと思った一番の理由は、これです。
『絵巻水滸伝』は、世間に知られずに埋もれていくにはあまりにも惜しい作品だと思うのです。
水滸伝自体、日本では三国志や西遊記ほどメジャーではありません。
そのうえ、その水滸伝を題材にしたWeb連載作品となると、さらに知っている人は限られてくるでしょう。
でも、実際に読んでみると、
「水滸伝って、こんなに面白かったのか」
と思わせてくれる作品です。
正子公也の圧倒的なビジュアルと、森下翠の人物描写。
原典を大切にしながらも、ただそのまま再現するのではなく、108人の好漢を一人一人の人間として描いていく。
私にとっては、これまで読んできた水滸伝の中で「こういう水滸伝が読みたかった」と思わせてくれた作品でした。
まずはWeb版を試し読みしてみてほしい
いきなり52冊を買う必要はありません。
『絵巻水滸伝』は一部公式サイトでWeb版を読むことができます。
現在は完結を記念して、第一部から順番にWeb上で再掲載されています。初めて読む人でも試し読みができるようになっています。
まず何話か読んでみて、
「この雰囲気、好きだな」
と思ったら、書籍版や電子版に進んでみるのがいいと思います。
おまけですが、水滸伝の好漢たちは元々は天界を追放された百八の妖魔という事で、本来の妖魔だった姿はどんな感じだったのか?というのをイメージして描いた画集「108 Stars」が発売するそうなのでそちらも興味がある人はぜひ。
※この情報は絵巻水滸伝公式サイトのブログの方に情報が載っています。
まとめ
今回は、中国四大奇書の一つである『水滸伝』と、私が特におすすめしたい『絵巻水滸伝』について紹介しました。
水滸伝は108人もの好漢が登場する非常に大きな物語なので、最初は登場人物の多さに戸惑うかもしれません。
私自身、原典を読んでいて「この人誰だっけ?」となることが何度もありました。
そんな水滸伝の分かりにくさを、正子公也の美麗なイラストと森下翠の文章によって、非常に分かりやすく、そして魅力的にしてくれたのが『絵巻水滸伝』です。
単に原典を現代風にアレンジしただけではなく、原典の流れを大切にしながら、人物一人一人をしっかり描いている。
だからこそ、これまであまり印象に残らなかった好漢まで好きになってしまうことがあります。
水滸伝を知らない人はもちろん、すでに水滸伝を読んだことがある人にも、一度読んでみてほしい作品です。
23年かけて完結した、これだけの大作がこのままほとんど知られないまま埋もれてしまうのは、本当にもったいない。
この記事をきっかけに、一人でも『絵巻水滸伝』に興味を持ってくれる人がいればうれしいです。

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